ルーツからみるマインドフルネスの本質

一般的な社会で暮らす人にとって、ここ数年でにわかに注目を集めているかのように思われるマインドフルネスですが、実際は非常に古い起源を持っています。

生き方としてのマインドフルネスは、インドや中国をはじめとするアジアにおいて、仏教の2500年に及ぶ伝統のなかで脈々と受け継がれてきたものです。

西洋社会に対しては、1960年代にベトナムの仏教僧 ティク・ナット・ハン(1926~)が、アメリカでマインドフルネス(念)による瞑想を紹介し、普及に努めたのがはじめと言われています。

この記事では、ルーツを探ることをとおして、マインドフルネスの本質について考えてみます。

マインドフルネスストレス低減法の出現

マインドフルネスストレス低減法の出現

近年の西洋におけるマインドフルネスの流行は、1970年代、*マインドフルネスストレス低減法*(英:Mindfulness-based stress reduction:*MBSR*)に端を発すると考えられています。

マインドフルネスストレス低減法は、生物学者であり心理学者であるジョン・カバット・ジンが特に痛みの緩和のために開発したものです。

認知療法の枠組みに瞑想を統合した技法で、仏教的な実践である マインドフルネスを中心としたものでした。

認知療法とは、体験に基づく思い込みや囚われによる誇張的で非合理的な思考パターンである認知の歪みにフォーカスし、認知を修正することで症状が改善されるとする心理療法のひとつです。

具体的には、心的過程を「脱中心化」(自他の視点を区別し、相互の視点から判断できるようにする)し、とらわれずに、穏やかにただ観察することを行います。

ジョン・カバット・ジンは 、1970年代初頭、マサチューセッツ工科大学(MIT)において、禅の師による瞑想についての講義に参加して感動し、すぐに瞑想を始めたそうです。

カバット・ジンが2012年に日本を訪れた際、マインドフルネスストレス低減法の基本理念は道元禅師の曹洞宗にあるとはっきりと言っています。

このように、マインドフルネスの起源が仏教にあることは明らかですが、西洋社会においては、宗教的問題の解決ではなく、心身の健康に適用されたのです。

マインドフルネスと英訳された言葉

マインドフルネスの語義として、「今、この瞬間の体験に意図的に意識を向け、評価や判断をせずに、とらわれのない状態で、ありのままを観察すること」といった説明がなされます。

そして、マインドフルネス(mindfulness)という用語は、ミャンマー、ラオス、タイ、カンボジア、スリランカで信仰された上座部仏教で用いられた パーリ語という言語の「サティ(sati)」という言葉が翻訳されたものです。

サティは、パーリ語経典を用いる上座部仏教だけでなく、漢訳経典やチベット語経典を用いる大乗仏教など、いくつかの仏教の伝統においても、重要な要素となっています。

仏教の教えにおいてマインドフルネスは、人を苦しみからの完全な解放したり、悟りと呼ばれるものへと徐々に導いていく自己認識や現象や背後にある道理を見極める智慧を発達させることに役立っているのです。

仏教用語としてのマインドフルネスの意味

マインドフルネス(mindfulness)と英訳された仏教用語は、上述のようにパーリ語のサティ(sati)、および、サンスクリット語においてsatiに相当するsmṛtiに起源がありました。

仏教において、その意味するところは、仏典のなかで、仏教の「法」を思い出すこと、覚えていることを意味すると説明されています。

仏教における法とは宇宙の真理や存在の奥義を意味し、法を自覚することこそが悟りです。

そして、法は、法を説いた仏、法を拠り所として生活する僧とともに三法と呼ばれ重要視されます。

なぜ法という真理のみならず、法の覚者である仏、法に基づいて生きて仏を目指し、人々を導く僧が、並列であるのか。

それは、釈迦入滅の際、弟子に残した言葉「自灯明、法灯明」に集約されているように思います。

その意味するところは、
「自らを灯明とし、自らをたよりとして
法を灯明とし、法をたよりとして
他のものをよりどころとせずにあれ」ということです。

単に概念的な真理を尊ぶのではなく、人がどのように生きるべきかを指し示す実践哲学としての仏教の真骨頂と感じます。

マインドフルネスに代わりうる訳語

Mindfulという英単語が持つ元々の意味は、「 心に留めて、忘れないで、注意して」といったものでした。

マインドフルネスとは、

*「今この瞬間の体験に心を集中させ、評価・判断をしないでありのままを観察すること」*

この定義における「心を集中させ、観察する」といった部分に注目したと考えられます。

他の可能性としては、評価判断しないでありのままにという部分を重視することが考えられます。

ありのままというと、 As it is などとなるでしょうか。

映画でおなじみのLet it go は、本来手放すという意味なので、ちょっと違いますね(笑)

評価・判断するに着目すると、judge、evaluate、measureなどの否定形でnot 〜ing という形でしょうか。

いずれにしてもスッキリと単語にはなりません。

「今この瞬間」にフォーカスすると、be here now というスピリチュアルでよく使われる言葉でよいかもしれません。

しかし、これも単語ではないし、抽象的すぎて伝わらない可能性が高いようにも思います。

他にも、気づいていること、目覚めていることという意味のAwarenessという単語がありますが、これなどもマインドフルネスの状態に近いと考えられます。

ただ、元来、サンスクリット語のsmṛtiは、to remember(記憶している)、to recollect(思い出す)、to bear in mind(心に留めておく)を意味し、satiもto rememberを意味するそうです。

そういう意味では、Mindfulな状態を保つ結果として、Awarenessでいられるわけで、直接的な行為を示すものとして、Mindfulという言葉が選ばれたのかもしれません。

西洋的マインドフルネスと仏教的思想の違い

次に、西洋的マインドフルネスと仏教的思想の違いを見ていきましょう。

端的に言えば、前者は現世利益のツール、後者は悟りの修行としての位置付けと言えるでしょう。

現世利益とはたとえば仕事のパフォーマンスを高めたりストレスマネジメント、それによる生活の向上全般ということです。

別の言葉で言えば、前者が自分の外の世界に対する働きかけをいかによくするかが目的であるのに対し、後者の目的は自己の内的世界の探究にあります。

心を穏やかで本来あるべき状態に近づけるという点においては、西洋的マインドフルネスも仏教的思想も似通っている部分はあります。

しかしながら、目指している到達点においては、大きな開きがあることもまた事実です。

仏教の視点からみるマインドフルネスの歴史的位置付け

仏教の視点からみるマインドフルネスの歴史的位置付け

とはいえ、仏教の視点からみて、西洋的マインドフルネスにまったく意味がないかというとそんなことはありません。

その最大の功績は、心をマインドフルネスという状態に置くことに関して、西洋の社会において人口に膾炙する機会を作ったことと考えられます。

マインドフルネスで得られる様々な恩恵は、心が備えている可能性の扉を開くものです。

意図するかどうかに関わらず、マインドフルネスの状態を深めていけば、自ずと真理に対する目が開かれるとも考えられます。

思考による分析的なアプローチによる対象の理解を得意とする西洋社会においては、ほとんどの人にとって仏教哲学の理解は容易ではないでしょう。

それがマインドフルネスという形をとることによって、誰にでもわかりやすくメリット(の一部)を認識してもらうことができます。

西洋的マインドフルネスは、仏教が目指す道で言えば入り口あたりに位置するものかもしれません。

しかし、人間の精神の成長を促すための実践的手法が、西洋社会において受け入れるためのパッケージとして有用なものと考えることができるでしょう。

まとめ

マインドフルネスのルーツである仏教的思想の奥深さは、心身の健康や生活向上のための一ツールといった理解をはるかに超えるものです。

一方で、現在の世界を主導する西洋社会が、人間の精神が秘める無限に大きな可能性に気づくきっかけとしてマインドフルネスには大きな期待がかかります。

これらを理解した上でマインドフルネスをうまく活用していきたいものです。

以上

この記事を書いた人

祇場駿矢

祇場駿矢

京都市出身。
京都大学法学部卒業。
大学卒業後、現在のメガバンクに入社、26年間勤務。

ビジネスの現場で産業調査や大企業の事業再生、富裕層取引等を担当、多くの企業経営者、富裕層顧客と接する中で、世の中の流れ、リーダーシップ、お金の本質等について考察を深める。

少年期より「人はなんのために生きるのか」「人はどこから来てどこへ行くのか」を自らに問いかけてきた。バブル世代でいったんは世の中の価値観に染まるが、会社オンリーの人生に生きる意味を見失って挫折を味わう。

魂が震える生き方を追求する中で一悟術に出会い、自身や周りの体験から、自己成長の最高のツールという確信に至り、独立起業を果たし、誰もが物心共に幸せになれる方法として「悟りを目指す生き方」を伝えている。

豊富な社会経験、懐の深さから、経営者、投資家、コンサルタント、カウンセラー、コーチ、医師、作家、セミナー講師、会社員、主婦など、多くのクライアントから支持されている。

著書「先行きの不安から自由になる『お金と心の法則』」(フォレスト出版)

HP:https://fillz.biz