継続的なストレスは脳を損傷させる?

心の問題だけでなく、肉体にも影響を与えるストレス。

ストレスは、免疫力の低下を引き起こすなどさまざまな疾患につながることが指摘されています。

いっぽう、現代の日本がストレス社会であることがいわれはじめて久しくなり、政府もその対処に着手しているものの、未だストレスによる問題が増え続けているのが現状です。

それだけ、現在の日本の社会は日常的にストレスが潜んでいるといえるのかもしれません。
日々、さまざまなストレスにさらされ、自分でもその状況に気づきにくいということもあり得ます。

では、このようなストレスが蓄積されていったらどうなるのでしょうか。

最近では、ストレスがかかった状態では、認知機能も落ちてしまうということもいわれています。脳の観点を中心にみていきましょう。

ストレスに反応する脳の部位は?

ストレスに反応する脳の部位は?

ストレスは、その種類によって脳内の経路が違うということが分かっています。

精神的なストレスの場合には、大脳皮質や感情に関係する辺縁系が最初に興奮します。

それが辺縁系の一部である扁桃体に伝わり、不安や恐れの反応を引き起こしたり、分界条床核(ぶんかいじょうしょうかく)に伝わり、嫌悪・不安・恐れなどの不快な情動を生み出したりします。

これらは、視床下部(ししょうかぶ)にある室傍核(しつぼうかく)を刺激し、CRH(副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン)を分泌します。

それによって、下垂体でACTH(副腎皮質刺激ホルモン)の分泌が促され、結果として副腎皮質でストレスホルモンであるコルチゾールの分泌が増加します。

また、扁桃体や分界条床核は脳幹の脳神経核や自律神経核とのつながりが深く、いろいろな身体症状や自律神経症状をきたすようになります。

いっぽう身体的ストレスの場合には、大脳皮質などは経由しません。

血圧や浸透圧の変化、末梢の炎症などといった身体の情報が延髄を介して、室傍核へと伝わります。

脳がストレスに反応すると起きること

脳がストレスに反応すると起きること

脳が精神的・社会的ストレスにさらされると最初は怒りが生じ、ストレスの原因となるものと戦おうとする、もしくはストレスの原因から逃げようとします。

これが、Fight or Flight(闘争か逃走)と呼ばれる反応です。

このときには、交感神経は活性化し、副腎からノルアドレナリンやアドレナリンが分泌されている段階です。

しかし、戦うことも逃げることもかなわないとなると、長期間ストレスにさらされることになります。この状態では、コルチコイドが上昇しています。

コルチコイドが高い状態が続くことで、免疫力が低下したり、癌になりやすくなったり、喘息やアトピー性疾患などの発症や増悪が起こります。

最近、こんな疲れが…。 脳がストレスを感じている?

慢性的にストレスにさらされていると情緒が不安定になったり、身体に不調をきたしたり、行動に影響が出てきたりします。

以下のような症状が出たら、ストレスを感じている可能性があります。

心理的症状

イライラする、感情的になる、精神的に不安定になる

漠然とした不安に襲われる、気分が落ち込む、憂鬱になる

注意力や集中力が低下している、無気力になる

新しいことに消極的になる

身体的症状

偏頭痛、肩こり、腰痛

腹痛、胃もたれ、食欲不振、便秘、下痢

動悸、めまい、手のふるえ

生理不順

倦怠感、疲れやすい、疲れがとれない

寝つきが悪い、寝覚めが悪い、夜中に目を覚ます、朝起きることができない

行動の変化

すぐにぼんやりとしてしまう

あまり笑わなくなる

ネットなどをだらだらと見続けてしまう

遅刻や早退が増える

ギャンブルやお酒に走る

言葉遣いや行動が乱暴になる

喋り方など様々な行動が早くなる

仕事でのミスが多くなる

外出が面倒になり、ひきこもりがちになる

継続的なストレスは脳機能を低下させる

心理的社会的ストレスは、ヒューマンエラーやパフォーマンスの低下と関係することが分かっています。

また、慢性的なストレス状況下で上昇するコルチゾールは、認知機能低下や注意障害を引き起こすという報告も見られます。

これは、物事を整理・処理・実行する機能と関係している前頭葉の機能低下や短期記憶と関係する海馬の機能低下が要因として考えられます。

脳の損傷も? 慢性的ストレスの弊害

脳の損傷も? 慢性的ストレスの弊害

では、慢性的にストレスにさらされた人の脳はどうなっているのでしょう。

扁桃体の肥大

ストレスを受けると扁桃体が活性化し、不安や恐れを生じ、それによる行動を引き起こします。

そのためか、ストレスがかかる状況が続いた場合には、扁桃体が肥大化するということが分かっています。

扁桃体が肥大化した結果、ちょっとしたストレスであっても扁桃体は活性化しやすくなります。つまり、わずかなストレスで恐れや不安がおきるわけです。それは場合によっては、衝動的に行動につながります。

前頭葉の萎縮

脳の前頭葉にある前頭前野はそういった扁桃体の暴走を鎮め、不安や恐怖を和らげてくれる場所です。

前頭前野は、脳の中で進化的に最も新しく、高度に進化した領域です。人を人たらしめる脳とも言われ、集中や計画、意思決定、洞察、判断、想起などに関わっています。

ところが、繰り返しストレスにさらされるとたとえ健康な人であっても前頭葉が小さくなってしまうということが分かっています。扁桃体の暴走を抑える力が弱くなるということです。

つまり、ストレスを繰り返し受けることで、不安や恐れが出やすくなり、さらにはそれを鎮めにくくなってしまうのです。

海馬の萎縮

ストレスは新しいことを覚えることに関わる海馬にも悪影響を与えます。

慢性的なストレスによって、コルチゾールが脳内に過剰にあふれやすくなり、海馬の神経細胞を破壊してしまうのです。

そのためか、心的外傷ストレス障害(PTSD)になると海馬が小さくなるという報告があります。

ストレスを脳に溜めないための方法

では、日々のストレスから脳を守るためにはどうしたらよいのでしょうか。

ここで一番大切になってくるのが、睡眠です。

質の良い睡眠は、ストレスで傷ついた脳を癒してくれます。
特に、最初の90分でいかに深く眠れるかが重要とされています。

そのためには、眠る90分前までには入浴をすませておく、夕食後くらいから徐々に刺激の少ない状況をつくること、眠る前には強い運動とブルーライトを避ける、なるべく同じような時間に眠るように心がけることが大切です。

他にも、ストレスの原因を遠ざける、運動をする、笑う、サポートを得る、マインドフルネスなどがストレスを溜めないようにするには効果的だとされています。

まとめ

ストレスは、日常の何気ないところにも潜んでいます。

ストレスから身を守るためには、ストレスに気づくということが大切です。いっけんすると喜ばしいことに思える昇進や結婚、出産なども大きなストレスの原因となることが分かっています。

特に慢性的なストレスは自分でも、なかなか気づきにくいものです。
定期的に自分の状況をチェックするとよいかもしれません。

参考
ストレスにより痛みが増強する脳メカニズム 仙波恵美子 日本緩和医療薬学雑誌 3: 78-84, 2010
唾液中ストレスバイオマーカーを用いた人の注意機能の評価 井澤修平 労働安全衛生総合研究所特別研究報告 40:159-162,2010

この記事を書いた人

木ノ本景子

木ノ本景子

研修医期間終了後、神経内科医として主に急性期病院にて13年間勤務。
3年間の回復期病棟での勤務を経て、平成24年より在宅医療に従事している。

多くの患者さんにかかわる中で、より健康であるためには、病気にだけフォーカスをあてるのでは不十分なのではないかと実感し、医療の分野以外にも学んでいる。

高齢になっても若々しく元気な方たちの特徴から、自分らしく生きることが重要性を感じ、そのためのツールとして脳と心についての情報をフェイスブックページやホームページを通じて発信している。

一悟術リーディング3級、日本内科学会 内科認定医、日本神経学会 神経内科専門医、医学博士、日本臨床栄養協会 サプリメントアドバイザー、感情カウンセラー協会認定 感情カウンセラー、リズ・ブルボーのからだの声を聞きなさいスクール カウンセラーコース終了、NLPプラクティショナー、著書に『脳の取扱説明書』(みらいパブリッシング)

HP:http://www.harmonista.org/
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